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佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧です。
前編では佐賀県多久市のすっぽん養殖場「大和養殖有限会社」見学の様子をご紹介しました。
こちらの写真は、養殖池から捕獲してきたすっぽんを祝辰博さんが仕分けているところです。
後編ではいよいよ珍味「すっぽん」を食します。私自身人生で初めて口にする食材ですが、現代はサプリメントの原料として需要があり、甲羅や無精卵も捨てるところなし。必須アミノ酸(人間が体内で合成できないタンパク質の素となるもの)が豊富で、そのバランスが良いことで注目が集まっています。肌の張りを保つためのコラーゲンもタンパク質ですね。
また、特に多く含まれるビタミンがビタミンB1,B2,B12,Dで、その他にも葉酸、パントテン酸、亜鉛、リン、カルシウムなど、様々なビタミンやミネラルの宝庫。脂質は飽和脂肪酸と一価脂肪酸、多価脂肪酸が3:4:3のバランスで含まれており、まさに総合的に栄養バランス満点な食材なのです。
大和養殖有限会社では、冷凍のすっぽんを販売しています。甲羅が100グラム、肉が200グラムの内容で簡単に調理できる商品です。さっそく自然解凍してお鍋にしてみました。
人生で初めて食べるすっぽん鍋は衝撃的でした!口に運ぶまでとまどいましたが、思い切ってパクリと口に入れると…コクと旨みが濃厚で、肉質は鶏肉に近く地鶏や軍鶏のように少し硬めですが、魚のようなさっぱり感。甲羅の淵はトロトロとしたゼラチン質の身が味わえます。
脂の部分の風味は独特な野生の香りがありますが、日本酒をたっぷり入れて生姜もほんの少し加えると味がしまります。すっぽんは意外にもさっぱりとした淡泊な味なので、野菜の旨みと相まってとても食べやすく美味でした。
透き通る琥珀色のスープをとるには清酒を加え沸いてきたらできるだけ一度できれいにアクを取ります。中火~強火で沸き立たせながら20分くらい煮出していきます。アクを取りすぎるとすっぽんの脂肪分まで取ってしまうので要注意。「出汁をとる時は始めの黒いアクをしっかり取ることが大事、でもアクは取りすぎるとコクがなくなってしまうからね。野菜は何でも合うよ!」と祝さんが教えてくれました。
すっぽん1杯に対し水1升、清酒4合で煮出すと比較的濃厚なスープになります。清酒も辛口の純米酒がおすすめで、すっぽんの旨みをうまく引き出してくれます。今まで、すっぽん鍋になぜ甲羅を入れるのか疑問に思っていましたが、出汁が良く出るという理由と甲羅の淵に多い軟骨部分にはコラーゲンが豊富に含まれるため、濃厚感の強いスープになるからだと納得しました。
また、すっぽんの筋肉エキスにはタウリンが多く、血清中のコレステロールを下げる働きや幼少時の脳組織の発育に関わりがあるといわれる成分です。洪光住監修の「中国食物辞典」(柴田書店)によれば、すっぽんの薬性は平で滋陽清熱、涼血の効能があり、補益陰血(栄養補給)の効があり、体虚痩弱者に適しているといいます。
栄養満点のすっぽん出汁で作った雑炊もとても美味でした。肉はややクセがありますが、出汁はコクがあり飲みやすいです。すっぽん鍋と雑炊を食べた直後から身体の芯がぽかぽかと温まる感じがして、額から汗がにじみ出てきました。こんな感覚は初めてでした。
大和養植有限会社は焼酎漬の卵も販売しています。珍味の類で丸飲みにするそうです。
すっぽんの卵が丸ごと焼酎漬けになっていて、そのまま食べられます。ちなみに、腹部に入っている卵の殻を形成する前の卵を「胎卵」といい、すっぽん料理に欠かせません。鍋物だけでなく、刺身、和え物、吸い物、煮物、蒸し物、焼き物、揚げ物と、様々な料理で出されるすっぽん料理の飾りに欠かせない胎卵は、少量でも鮮やかな黄色で料理を彩ります。
「すっぽんの養殖は冬場より夏場が大変です。炎天下の中、卵を有精卵と無精卵に仕分ける作業が大変」と祝さん。写真は水を抜いた養殖池内部。
祝さんはこの養殖場を一代で築き上げてきました。学生時代から水産養殖を学び、県外のすっぽん養殖場で2年、ノウハウを習得して佐賀に戻って起業しました。まずは配管と左官の資格を取り、設備は自ら設営。コスト削減のため、自分で何でもこなしてきました。設備管理ができるというのは経営者として大きな強みですね。
【食育メモ】
すっぽんは中国では3000年以上前から食べられていたという記録が残っており、楊貴妃も宮中料理で食していたそう。栄養価の高さから、中国ではすっぽんの料理や管理を司る職業もあったとか。雄しか食べず、国を挙げてすっぽんを大切にしていました。
日本では、すっぽんの化石が貝塚から出土し、縄文時代から食べられていたという説もあります。江戸時代中期には比較的安値で手に入ることから庶民に愛され、滋養強壮のために親しまれる食材でした。京都を中心とした関西ではすっぽんの鍋を「丸鍋」と呼びますが、丸とはすっぽんのこと。背中の形が丸いので「月とすっぽん」という言葉も生まれました。
最近は、ほとんどが養殖もののすっぽんで旬はほぼなく、季節による味の違いや品質は安定しています。しかし冬場の冬眠期間であるすっぽんの方が脂がのっており、脚の付け根が盛り上がっているすっぽんが美味しいとのこと。
高級食材というイメージがありますが、意外にも手ごろで食べやすいすっぽん。古き良き時代の日本人が愛した食材を食べてみませんか?衝撃的な味覚との出逢いを通して、すっぽんの魅力を感じられるかもしれません。
佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧でした。
参考文献:鈴木隆利(2007)「フグの調理技術・すっぽんの調理技術」旭屋出版