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みなさま、こんにちは。佐賀県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧です。
松野貞文社長の佐賀県視察では、松野社長と以前より親交のある御厨博昭さんの営む「ゆっこ農園」にも伺いました。ゆっこ農園様は米・麦・大豆・アスパラガスなどを中心に栽培されていらっしゃる農家様。今回はアスパラガスのハウスを見学させて頂きました。
アスパラガスのハウス内は湿度70~80%以上と高い状態を維持しているので、中に入ると眼鏡やレンズが曇ってしまうほど。ハウス内は温度30度前後を維持しており、扉を閉めて100%の湿度にすることを「蒸し込む」状態といいます。2~3月上旬のハウスの湿度は100%。ハウスを換気することで温度は下がり、今は扉を少し解放し換気をしている時期でした。
昨年11月に雨が多かったことと、暖冬のため12月に5度以下になる日が少なく、アスパラガスの生育に影響が出ており、「温暖化の影響で寒い時期になかなか温度が下がらず冬期に十分に冷やすことが難しかったが、そのことがはっきりした原因なのかどうかは分からない」と語り、例年より細く、萌芽が少ないと話されていました。
アスパラガスは松葉のような細い葉のようにみえる茎(擬葉=ぎよう)が生い茂る時期に5度の環境で500時間以上休眠させることで、擬葉の養分が根に移るといわれています。これを「養分転流」と呼び、緑の擬葉を完全に黄色に枯れさせることを「黄化」と呼びます。下の写真は6~9月の様子。この擬葉の色が11月頃になると黄化していきます。
ハウスを開放し、冷やし込む作業が11月から1月上旬まで続きます。しっかりと冷やし込むことで養分転流が促進できるのです。年々、冬場に十分に冷やすことが難しい環境となってきているとのことでした。松野社長も「温めることはできても、冷やすことは難しい」と、暖冬の影響は他の作物も同様であると環境の変化に対する対策に注目していました。
1月頃、消毒のためバーナーでハウス内の黄化した擬葉をムラなくじっくり焼きます。その作業は1棟で半日かかり重労働。春先にしっかり芽が出るように、堆肥、肥料、水のバランスを考え、冬季間の管理を徹底して行ったり、土に埋まって見えない根や茎といった部分に対して管理していくことの難しさを知り、真摯に取り組まれている御厨さんの姿に松野社長も感心しきり。
年間を通じて手間がかかる作物ですが、アスパラガスはキジカクシ科(古い分類体系ではユリ科)の多年草で、定植して2年目から収穫することができ、収穫は春芽(2〜5月)と夏芽(6〜10月)の年2回の旬があります。約15年ほど毎年収穫することができる野菜。御厨さんのアスパラガスは、「ウェルカム」という品種で全国的にも早い時期からの出荷ができるものです。
御厨さんはハウス収穫5年目、アスパラガスの株は通常15~16年は収穫できます。しかし、定稙して17~20年も収穫する方がいるそうで、驚きました。佐賀県では多くのアスパラガスの産地では栽培20年を迎え、生産者の高齢化や株の老齢化が進行し、収量が低下している圃場もあります。下の写真は新規に苗を定植した風景、4月下旬ごろの一年目の株です。
温暖な気候に恵まれた佐賀県におけるアスパラガスの栽培は、雨避けハウスで加温施設がありません。御厨さんは米や麦以外にも栽培したいと思ったときにアスパラガス栽培をするきっかけとなったのが、加温の必要がなく比較的設備投資が少ないという理由でした。加温設備のないため、ハウスは二重になっています。
アスパラガスの収穫は、専用のはさみで行います。長さが一定となるようにメジャー付。はさみに棒のついた面白い形をしています。穂先が開く前に、28〜30センチほどで収穫します。これはピッキングセンターで25センチに揃えられるからです。
収穫は朝と夕の2回行う日もあります。御厨さんの愛情込めたアスパラガスは、ひとつひとつ丁寧にはさみで刈り取られ9割がJAに、1割が直売所に卸されています。アスパラガスは乾燥しやすいので水分が蒸発しないように濡らした新聞紙でくるみその上からラップで包んで冷蔵庫に。横にすると上に伸びようと穂先が曲がってしまうので冷蔵庫のなかでは立てて保存すると良いです。
視察同行を行った3月下旬と違い、4月中旬のアスパラガスは親木が立ちはじめます。普段よく見る25センチほどのアスパラガスを収穫せずにおいておくと、2メートル以上にもなります。夏芽の収穫のために一旦収穫をやめ茎を伸ばし、擬葉を展開することで株に養分を蓄えさせます。
(写真提供:御厨博昭様)
春芽と夏芽のハウス内では全く違った風景となります。春に立った茎が立派に成長すると夏芽の収穫が始まります。春芽の収穫は3月にピークを迎え、夏芽の収穫は6月下旬から7月にかけてピークを迎えます。
アスパラガスは雌雄異株の植物、雄株と雌株があります。写真は6月から8月頃、アスパラガスの雌株の花です。とても小さく5ミリぐらいの花ですが、ユリの花のカタチに似ています。
アスパラの実は9月頃にこのように真っ赤に熟します。この実の中に種が入っているのです。
自然に落ちた種から芽が出ていました。この小さな芽から年数を重ねるたびに地下茎に栄養をためて株は大きくなり、アスパラガスがたくさん採れるようになるのです。それも農家様の徹底した栽培技術と管理があってこそです。今回、アスパラガスについて多くを学ぶことができました。
平成29年3月の総務部統計分析課(統計からみた佐賀県)によると平成27年産の佐賀県のアスパラガスは北海道に次いで収穫量・出荷量ともに第2位を誇ります。「日本一のアスパラガスの産地」を目指して、佐賀県は昭和29年にアスパラガスの栽培が鳥栖市で始まりました。
病気などの発生で収量は伸び悩み、面積は減少の一途をたどりましたが、試行錯誤の末、昭和58年に病気対策として雨避けハウスが導入されその後部会の増加、産地間の情報共有や技術研究などを経て現在に至ります。これからも「がばいうまかアスパラガスの産地」として応援していきたいです。(佐賀弁で、がばい→とても、うまか→おいしい)
じわっと汗ばむような温度のハウスから出ると、心地よい春の風が吹いていました。視察を受け入れて下さいました「ゆっこ農園」の御厨博昭さん、お忙しい中ありがとうございました。
佐賀県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧でした。