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佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧です。
今回は、佐賀県の中央に位置する多久市の伝統野菜「桐岡(きりおか)ナス」をご紹介いたします。
「桐岡ナス」は、多久市多久町桐岡地区にて自家消費用のナスとして受け継がれてきました。一般的な長ナスに比べ、重量が約3倍もあり、大きいもので400~500グラムもあります。形はラグビーボールのようですね。皮や肉質がやわらかく、種が少ないので食味の良さが特徴です。甘味も強く、採れたてを生でかじるとアクが少なくフルーツを思わせる甘さ。火の通りが早いので、グラタンや天ぷら、ホイル焼きなど、幅広い調理法で楽しめる万能野菜です。
日本の原風景の残る山道を奥に奥に‥‥一番奥まで進むと到着するのが、伝統野菜2品目を守り育てている舩山真由美(59)さんの田畑。以前、多久市の伝統野菜「女山大根」の取材でもお世話になりました。
https://www.matuno.co.jp/vegeful/category/journal02/4768.html
伝統野菜とは、各地で地名を冠していることが多く、古くからその土地に伝わる在来品種。地方野菜とも言われ、スーパーで一般的に手に入る品種と違い、色、味、形が特徴的です。栽培は手間がかかり、生産効率が悪く、不揃いのために流通にのれないことや、農業の継承者不足から生産者が減少しています。
しかし、現在、細々と守られてきた伝統野菜「桐岡ナス」を地域ブランドにしようという試みが進められていて、行政と農家の協力で販売促進を図る取り組みが始まりました。多久市では約1000株ほどを25名の生産者が培していますが、「定年退職した人を引っ張ってきて農業参入を勧めていますが、若い人がいない状況です。一番若い人でも59才。ほぼ80代が桐岡ナスを生産しています」と舩山さんは語ります。
そんな舩山さん、実は元々ナスは好きではなかったそう。「以前はナスを全然食べなかったけど、この桐岡ナスに出会ってから食べられるようになり、好きになりました」と笑顔。消費者も「このナスを食べて好きになった」「普通のナスをもう食べられない」と言うほど、ナスが苦手な方でも食べやすいようです。
左は一般的なナス(中長ナス)、右が桐岡ナス
手で触った感じが全く異なります。桐岡ナスは、手で持つとふわふわとスポンジのように凹みます。皮も薄くて柔らかく風船のようです。桐岡ナスは空気を多く含んでいるのでふわふわなのです。
舩山さんの畑で、良いできのナスと固いナスを触り違いを感じさせてもらいました。固いナスは種が多く実も固いのですが、ふわふわとした良いできのナスは種も少なくて食味も良いのです。
舩山さんは5年前よりこの桐岡ナスを生産しています。現在70株を育てていますが、生産が追いつかないとのこと。品質の良いナスのみ販売用にして、その他は乾燥や味噌漬けなど加工用に回しています。収穫期は7~11月初旬まで。
桐岡ナスの花です。ナスは本来おしべは5本ですが、よく見るとおしべが6本ありますね。
ナスの葉は楕円形で左右のカタチがいびつになっています。葉脈も綺麗な紫色です。この紫色はアントシアニン(ポリフェノールの一種)で抗菌性を備えているので、病害虫から身を守っていると考えられています。ナスの果皮が濃い紫色なのも種を守るためなんですね。
カゴいっぱいに収穫された色の薄い桐岡ナスは加工用に回されます。「桐岡ナスは普通のナスに比べて実成りが少ないし、病気になりやすい」と舩山さん。伝統野菜の一番の特徴として収量の少なさがあげられますが、舩山さんも「今まで栽培してきたナスよりも収量が少ないし、栽培が難しい。葉がナスにあたらないようにしたり、太陽の光がたくさん当たるように気をつけている。どうしても病害虫にやられてしまう」と嘆いていました。
こちらはお尻の部分にスリップス(アザミウマ)という病害虫によって傷を負ったナス。今年は販売用のナスの収量が少ないとのこと。病害虫以外にも、気温の高い日が多く干ばつによる水不足も影響が大きいそうです。
舩山さんは、夏場はオクラやピーマン、かぼちゃ、生姜、キュウリ、ハウストマトなども栽培しており、年間を通じて50品目は育てているとのこと。畑は5反(1500坪)、米は1町(100アール・およそ3000坪)を家族3名で管理しているというのだから大変です。それでも、お客様に「美味しい!」と言ってもらえるように、土づくりから収穫まで野菜と根気よく向き合い、日々の作業に励んでいます。
この「桐岡ナス」、いつの時代からこの土地にあるかは誰にも分からないそうです。諸説ありますが、「伝統野菜」という呼び名が使われ始めたのは50年ほど前からで、この桐岡ナスはまだ伝統野菜という名称がない頃にすでに市場へ出荷されていたという記録が残っています(昭和3年以前まで)。
同じ佐賀県多久市の伝統野菜「女山大根」には古い記録がありますが、桐岡ナスについては記録が残っていないので、なんだかとてもミステリアスな面白さがあるなぁ…と、歴史のロマンを感じるのは私だけでしょうか。
伝統野菜は深くて面白くて大好きです!「その土地で」「古くから」「採種を繰り返して」「食文化と密接に関係」している、この4つがキーワードです。栽培が広域化してブランド化することで、さらに広く認知される存在となり、在来作物の保全にスポットが当たることは、再びその品種に地域に活力が生まれることだと思います。農家の減少とともに、在来品種の作り手も減っている今の時代、「伝統野菜」の底力を見守っていきたいです。
次回は舩山さんの育てた「桐岡ナス」を使ったお料理をご紹介します。
佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスター前田成慧でした。