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長野県まつのベジフルサポーター 野菜ソムリエプロの戸谷澄子です。
これまでのリンゴといえば、切ると中身は「白」か「淡いクリーム色」が一般的でしたが、長野県中野市で、中まで「赤」いりんごが栽培されています。
これは「なかの真紅(しんく)」という赤果肉品種のリンゴです。
皮を剥かれてこんな風に出されたら「えっ? これ、リンゴ?」って思いますよね。
現在いくつかある赤果肉リンゴは、生食にはあまり向かない加工用のものがほとんどでしたが、ここ中野市では生のまま食べてとても美味しい赤果肉リンゴが栽培され始めています。
今回は、このリンゴを長年にわたり研究し開発された中野市のリンゴ農家、吉家一雄さんの農園にお邪魔しました。
吉家さんが赤果肉のリンゴに出会ったのは農業大学の学生だった頃。それは観賞用のリンゴだったそうですが、当時とても衝撃を受けたそうです。卒業して実家に戻り農業を継ぎながら、30年以上も赤果肉リンゴの研究続け、その味や用途、収穫の時期やそれぞれの持つ個性にこだわり、ようやく生食でもおいしい赤果肉リンゴの栽培に成功し、現在6つの品種登録がされています。
「なかの真紅(しんく)」「ムーンルージュ」「いろどり」(中野市限定栽培)「炎舞(えんぶ)」、そして酸味が強く味が濃厚で加工用に向く「冬彩華(とうさいか)」「なかののきらめき」(中野市限定栽培)の6品種です。
これらの特徴は、その珍しい赤い色はもちろん、断面の幾何学的な模様が美しく、現在あるいくつかの赤果肉系統の中でも、生で食べて美味しいことです。糖度や食味に優れ、適度な酸味も兼ね備え、また断面の模様も鮮やかで美しいことから、一流ホテルのシェフやパティシエの方々からの注目を集めているそうです。また、品種により収穫の時期は異なりますが、いずれも貯蔵性が高く、長いもので冷蔵貯蔵で60日もつことから、長期にわたり提供できるリンゴというのも強みのひとつです。
これらの品種はまだ新しく、一般に栽培が始まって2~3年目。リンゴは苗木を植えてから2~3年で実が成りはじめ、出荷できるような実が成るまでには7~8年くらいかかるそうです。長野県内で逸早く栽培を始めた農家さんでも、安定的な収穫が見込まれ一般に販売できるようになるのは、もう3~4年後の話だそうです。現在、吉家さんの作る赤果肉リンゴは、提携しているホテルや製菓店へ出荷しているだけとの事でした。「なかの真紅」以外にも、吉家さんが、農園でいくつかの品種をカットして見せてくれました。
「いろどり」
「紅玉」×「ピンクパール」を掛け合わせてできた品種です。他の5品種全ての親になっている赤果肉リンゴです。皮の赤が濃いリンゴなので外観だけで早取りしてしまうと、果肉に赤みが不十分だったり、大玉に育ててしまうと着色が悪くなることがあるそうです。こちらは中野市限定栽培としている品種です。
「ムーンルージュ」
「いろどり」×「ふじ」より生まれました。
濃厚な味で贈答用に期待できる品種です。甘くて酸味も低く、シャリシャリとして食味の良いリンゴでした。見た目(皮)は黄~オレンジ色のリンゴです。この写真は、収穫時期より若干早めなので果肉はまだ薄いピンク色でしたが、これから更に色がのってくるとのことでした。果肉が赤色になると、皮が黄色からオレンジに変わるので、頃合いを見極められて収穫しやすいリンゴだそうです。
「炎舞(えんぶ)」
切り開いて見た瞬間、思わず「わっ!」と声をあげてしまいました。まるで夜空にあがった花火のよう!吉家さんもニッコリ。私の反応を予想していたようです。「炎舞(えんぶ)」の名は、切った断面が「炎が舞っているよう」ということから名付けられたそうです。外観が赤くとてもキレイ、そして濃厚な味。酸味は低く、甘味を感じます。まだ少し収穫には早い時期だったので、これからもっと赤みが増し、蜜入りするそうです。
吉家さんの農園では、1本の樹に何種類ものリンゴが実っていました。
これらはまだ名もついていないリンゴたち。「これは7号だな。それは9号だね。」と全て番号で呼ばれていました。1つの果樹園をぐるっとひと回りしただけでも、50種以上の赤果肉リンゴが栽培されていて、(このうち新規に品種登録されるのが1つあれば良い方だそう…)いろんな種類を試食せていただきましたが、食べ比べるとそれぞれに特徴があり断面の模様も違っていました。納得のいく味や品質、栽培のしやすさ、個性など総合して品種登録するリンゴが選ばれます。吉家さんは、現在の品種を栽培する傍ら、さらなる次世代の品種も研究されており「まだまだこれからだ。もっと美味しい赤果肉のリンゴを開発するよ!」と、やさしい笑顔で、とても力強く語ってくださいました。
その後、吉家さんのご自宅にお邪魔し「なかの真紅」のコンポートをごちそうになりました。
これは、吉家さんのお嬢さんが作ってくれたコンポート。皮をいて少量の水を加えて煮ただけだそうですが、糖度(約16度)も高く、程よい酸味もあるので、砂糖なしで煮てもとても甘酸っぱくて美味しかったです。この赤い色は、抗酸化作用で知られているアントシアニン系色素によるものです。栄養面からみてもうれしいですね。
残念ながら、今現在ではまだ希少すぎて、吉家さんにお願いしても一般に販売はできませんが、中野市を中心に生食でおいしい赤果肉リンゴの栽培は始まっています。数年後には普通にスーパーで買えるようになり、いつしか「リンゴは赤い、切っても赤い」が常識になる日がくるのかな? と、ちょっとワクワクしながら楽しみに待ちたいと思います。
長野県まつのベジフルサポーター 野菜ソムリエプロの戸谷澄子でした。