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沖縄県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエプロの齋藤珠美です。
暖かな沖縄も時より冬の寒さを感じる12月。沖縄本島ほぼ中央部の東海岸に位置する金武(きん)町では、沖縄の正月料理に用いられる田芋の収穫が始まりました。ここは亜熱帯の自然と豊富な湧き水に恵まれ、田芋の生産が盛んです。
沖縄の伝統的農産物でもあり、県民がこよなく愛する田芋は、方言で「ターンム」、和名で水芋。親芋の周りに子芋がつくことから子孫繁栄の縁起物として、沖縄のおめでたい席に欠かせない食材です。サトイモ科に属する田芋は、「田んぼの芋」という名の通り水田で育ちます。きれいで豊富な湧き水がある金武町や宜野湾市で主に栽培されています。
今回は伊芸(いげい)徳次郎さんの畑を訪問しました。関西で暮らしていた徳次郎さんは10年前に帰郷し、兄から代々伝わる田芋畑を継ぎました。当時はまだ規模の小さい畑でしたが、今では2000坪にまで広がり、昨年は2トンの田芋を収穫。関西出身の妻の妙子さんは専業主婦から一転、田芋農家へ。「芋の成長ぶりを見るのが楽しい」と明るく軽快に話す笑顔に、思わずこちらも笑みがこぼれます。
夏になると背丈ほどの高さにまで育つ田芋の葉。「一番苦労するのは雑草取り、栄養が雑草に取られるからこまめに取り除かないと芋に栄養がいかない」と徳次郎さん。
(写真提供:伊芸恵理子さん)
大きな葉は次第に枯れていき、50センチほどの葉が残る時期になると収穫の目安。この取っ手がついたパイプを使って一つひとつ掘り起こしていきます。
収穫された親芋がこちら。「1年間愛情込めて育てた田芋を掘り起こすこの時期のこの瞬間が一番楽しい!」と伊芸さんご夫妻。
水洗いして芋と茎とに切り分けます。
親芋から収穫し、その後子芋を堀ります。子芋の茎に少し芋を残して切られた茎を苗とし、これが翌年の親芋となり、それに子芋が育つのです。
茎(ズイキ)は沖縄方言でムジと言われ、筋を取り茹でて食用とし、汁物に入れたり酢味噌和えでいただきます。
植え付けから収穫まで約1年間、収穫期は12月から4月頃で収穫と苗植えも同時進行で行われます。通常はロープを張って植える位置を決めますが、なにより人手と時間がかかります。等間隔できれいに植え付けされている苗には秘密兵器の存在が…
こちらが徳次郎さんが開発した苗植機!
雪ソリにパイプを取り付けたアメンボのような形が特徴的です。パイプの縦横の間隔は田芋の栽培に適した40センチ。雪ソリの上に苗を置き、水田を滑らせながら植えていきます。誰でも等間隔に植えることができ、なんといっても作業効率が良いこの苗植機は、近隣の田芋農家さんの間で注目の的だとか!
収穫された田芋はほとんどが加熱処理をした状態で販売されます。生の状態だと傷むのが早く、また炊き上げないとその良し悪しを判断できないとの理由から。薪を使い鉄鍋で炊き上げるのもこだわりのひとつ。加熱すること1時間、鉄の成分によってきれいな紫色に炊き上がった田芋は薪の香りがほんのり移ります。
「徳次郎さんの田芋はホコホコして美味しい」と常連さんから好評。専用の芋洗い機できれいに水洗いした田芋を、17~21時までの時間に順に炊きあげて一晩冷まし、翌朝出荷します。手間暇惜しまず「新鮮なものをおいしく届けたい!」という強い想いとこだわりの炊き方が美味しさにつながっているのですね。
(写真提供:伊芸恵理子さん)
収穫後(写真右)と炊き上げ後(写真左)の田芋。こんなにも姿が変化します。
加熱した後に割れ目がパカッと開ているものが質がよく美味しい証拠だそう。栗のようにホコホコしてむっちりとした自然の甘さは誰でも虜になりますよ。生産者が下処理の大部分を済ませてから出荷してくれるので、調理しやすい状態で手に入るのも生活者にとってはありがたいですね。
徳次郎さんおすすめは「田芋のニラ炒め」。76歳の徳次郎さんの元気の源は、この田芋料理のおかげなのでしょうね!出来のよい大きな田芋ができると、「1年間育てたかいがあった!」と感激もひとしお。
(写真提供:伊芸恵理子さん)
さて、田芋を使った代表的な料理が味わえるカフェレストラン 長楽へ。
こちらは田芋御膳、琉球王朝から伝えられてきた伝統料理の品々です。
「ムジ汁」(手前中央) 田芋の茎と豚肉・豆腐などをかつおだし出汁で煮込んだ味噌仕立ての汁物。
「ドゥルワカシー」(中央) 芋と茎に豚肉や椎茸を加え豚出し汁で煮込んだ料理。
「ディンガク」(後列中央) に潰した田芋に砂糖を加え混ぜた沖縄風きんとん。祝儀料理の一品。
田芋の茎を使った「ズイキの酢味噌和え」「ズイキの肉巻き」、ドゥルワカシーをコロッケのように揚げた「どぅる天」はアレンジ料理。カリッと香ばしく揚げた芋に甘辛タレをくぐらせた「揚げ田芋」など…素朴ながらも味わい深いものばかり。
また、上品な甘さと加熱するとむっちりねっとりとした田芋特有の粘りが出る特性を活かし、お菓子の材料としても使われています。パイやチーズケーキ、まんじゅう、どのスイーツも甘さ控えめの田芋あんがたっぷり!「田芋工房きん田金武店」
私は「田芋の彩りそぼろあんかけ」を作ってみました。片栗粉をまぶして揚げた田芋に、パプリカ・ピーマン・挽肉のあんをかけました。彩り野菜を合わせることでより華やかに。田芋は沖縄の行事ごとの時期(お正月・お盆など)になると多く出回ることから、他の芋より高価な食材として珍重されています。伝統料理も親しみながら、新たな食べ方も紹介していけたらと思います。
田芋畑近辺にはマングローブ林が望める億首川があります。カヌーに乗りながら亜熱帯の植物や野鳥を観察することができる、この時期おすすめのアクティビティ。
金武町での緩やかな時間は日ごろの疲れを癒してくれます。
田芋の伝統料理を味わえる亜熱帯の自然豊かな町。ぜひ沖縄観光で金武町を訪れてみてはいかがでしょうか。
沖縄県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエプロの齋藤珠美でした。