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長野県まつのベジフルサポーター、野菜ソムリエプロの戸谷澄子です。
青く澄んだ夏の空、爽やかな高原の風が吹き抜ける蓼科高原。高原野菜に適したこの地で、多品目栽培をされている、ちょっと面白い農家さんがいらっしゃると聞き、訪ねてみました。
今井農園の今井明さん。奥様と二人で自宅の周りにある広い農場で、少量多品目栽培にこだわり農園を営まれています。圃場を見せていただくと、1畝1畝違う品種が植えられ、様々な種類の野菜が育てられ、その数なんと100種を超えるほど!
今井さんが多品種栽培を始めたきっかけは今から17年前。直売所に野菜を出荷した時に、同じく直売所に食材の仕入れに来ていた地元のレストランのシェフや、保養所施設の料理人の方と話すようになり、ある時「間引きしたときの小さな人参を売ってくれないか?」と1人のシェフから声を掛けられた事からでした。
シェフの話によると、イタリアンやフレンチでは、お皿に飾りつけるため小さな野菜が重宝されるが、なかなか手に入らない。何軒かの農家さんに頼んではみたがあまり良い返事は返ってこなかった。そんな時に今井さん出会ったそうです。
当時はまだ珍しいとされているイタリア野菜や、食用ほおずきなども積極的に栽培しました。「アイスプラントも今では一般的だけど、この辺りでは、珍しい野菜はだいたいうちが先駆けで作ってきたと思うよ。」と今井さん。
声を掛けてくれたのは1人のシェフだが、そのシェフが欲しい食材はきっと同じような飲食店でも、実は欲しいと思われているんじゃないか。それからは積極的に料理人たちから欲しい食材を聞いては、その種を探し集め、珍しい野菜作りにも挑戦していったそうです。たくさんは使わないけどちょっとだけ欲しい、といった野菜も「いいから、作るよ!」と栽培するうちに、どんどん種類が増えていったそうです。
あちらこちらに、少しずつ、たくさんの品種の野菜たちが育っています。ナスも何種類も栽培していました。
京まんじゅう
カラフルな長ナスたち
ロッサビアンカ
埼玉青大丸なすもありました。
バジルも4種類
お寿司やさんのかっぱ巻きに合わせて、水分が少なくて丈の長いキュウリを栽培したり
カラフルなミニキャロットも
面白い色のささげや、
黄さやいんげんもありました。
味はいんげんとほぼ同じですが、ほんのりと甘くてクセもなく、茹でてもキレイな黄色のままなので、お皿で映えますね。これもシェフからのご要望でしょうか。
ホポーの木もありました。小さな実が成りかけていましたよ。
山椒の木も
今井さんの庭には、年間通じて常に水温が13~14度という冷たい湧水が流れていて、その澄んだ湧水を使ってクレソンも栽培されていました。この日はとても暑い日だったのですが、この様子に一気に清涼感で満たされました。
腕まくりして湧水に腕をつけてみましたが10秒もしたら腕が痛くなるほどの冷たさでした。
ここで飲み物を冷やしたり、採れた野菜を冷やしたりして食べているそうです。なんとも羨ましい生活ですね。
今井農園では減農薬栽培にも取り組んでいて、ミニトマト、馬鈴薯、ねぎなどで「信州の環境にやさしい農産物認証」も受けています。
さて、見ていてお気づきの方もいらっしゃるでしょう。今井さんの畑には、至る所に手作りのポップがあります。
どの畝にも何の野菜が植わっているのか、また、その野菜の説明がされていて、見ていてとてもわかりやすくなっています。
バナナピーマンもあれば、
この珍しい色のささげにも、
その特徴や美味しい食べ方までポップに書かれていて、収穫の時期でなくても、何の野菜が育っているのか、その過程も見て学べる圃場で、見学が楽しくなります。
ここ今井農園では、圃場の見学も積極的に受け入れており、年間300人もが見学に訪れるそうです。都会の農業体験を希望する子供たちや、県内の高校生や大学生、調理師専門学校の生徒さんなど、課外授業として毎年恒例で受け入れています。
その受け入れによって、作業に遅れが出ることもあるそうですが、今井さんは「若い人たちに野菜の事をたくさん知って欲しいし、食卓に並ぶその野菜がどんな花を咲かせ、どんな風に成長していくのか知って、もっと食を楽しんで欲しいんだよね。そういう意味で『見せる農家』があってもいいんじゃないかって思ってね。」と優しい笑顔で話してくれました。
これはエンダイブの花。紫の小さな可愛らしい花を咲かせるんですね。
春菊の花。これも、見学に訪れる人たちの為に、わざと残しているのだそうです。
「食べること、それは自分の体を作ること。その食に関心をもって楽しく食べている人ってどのくらいいるのかな?野菜が育っていく場所を見せることは食育としてとても大切なことだと思うから、これからも『見せる農家』でありたいね。」今井さんはそうおっしゃっていました。
畑の野菜を見て、その野菜の味を想像して、お料理を連想して……。それはとても楽しくて貴重な学びなんだなぁとあらためて感じ、見学した帰りの車の中、なんだかとてもあったかい気持ちになりました。
長野県まつのベジフルサポーター 野菜ソムリエプロの戸谷澄子でした。