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佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧です。
今回は神崎市で生まれた新しい特産品「菱(ヒシ)」を取材しました。
紅葉の名所「九年庵」や「吉野ケ里遺跡」があり、観光にも力を入れている神崎市。市内を2つの大きな河川が流れ、水田のために整備された農業用水路が多く、水と緑に恵まれた自然豊かな町で、市役所総務企画部・政策推進室が「神崎ブランド」として「菱」を市の新しい特産品にしようと2009年から調査と栽培を本格化しました。
菱とは、夏から秋にかけて池や沼の水面を覆っている植物で、アジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界各地に分布する一年草の水草。日本には全国のクリーク(農業用水路)や池に生息していて、昔から実の部分は食用としておやつに食べられ、外皮は乾燥させてお茶として飲まれていました。
菱の種類には、菱(和菱)、オニ菱、唐菱、ヒメ菱などがあり、神崎市では日本に昔から生息している菱(和菱)を栽培しています。
収穫場所に行ってみると…かなり遠い所で収穫をしている様子。手前のクリークから収穫が始まり、3週間程経っているとはいえ進み具合に驚きました。
一人ひとりタライのようなものに乗って収穫しています。
昔から味噌づくりや漬物づくり、洗濯などに使われていた「ハンギー」と呼ばれる木製のタライに乗って採取します。その風景は神崎市の秋の風物詩です。神崎和菱組合の生産者の平均年齢は70歳。一番若くても60歳代、80歳以上の高齢の方もいて、朝7時頃から夕方4時まで、忍耐と根気のいる作業が続きます。
菱は水面に浮かぶ一株から収穫に適したサイズのものは8個ほど採取できるそうです。また、「水田とクリークの菱は味は変わらないが少し色が違う」と教えてもらいました。水田は水深が浅く黒っぽくなり、クリークでは深い水深で流れもあるため緑色(モスグリーン)をしています。太陽に当り乾燥すると黒っぽく変色していきます。
2018年の水田耕作面積は70a、収穫量は水田が1500kg、クリークが1000kg見込で年々増えています。(2012年から水田栽培はスタート、2012年の水田耕作面積22.4a水田収穫量495kg、クリーク1000kg)
「生のまま食べてごらん。綺麗に剥けたらハート型だよ」と促され、収獲したての菱の実をひとつ剥いて食べてみました。梨のような甘さと生の栗のようなサクサク感。初めて味わう味でした。白くて綺麗なハート型の果肉が外観の厳つい外皮からは想像できない可愛さでした。
菱の実は秋に熟した実が水底に落ち、冬を越して春になると発芽し、8月頃に花を咲かせて、9月に実を膨らませます。クリークや池で収穫できるのは9月中旬から11月下旬頃まで、水田栽培は菱の実が落ちても収穫できるので、クリークの収穫が終わって12月上旬から2月下旬に収穫しています。今年は夏場の暑さの影響もあり収獲期が早まっているそうです。
ハンギーを漕ぐときは20センチ程の木の板を両手に持って漕いで進みます。ちなみに、神崎市では8月にハンギー祭りがあり、漕ぐスピードを競う大会があります。
1時間半ほどで1人が約5~6kg採取できるそう。
収穫した菱の実は集められ、神崎和菱組合の作業所へ運び、洗浄・消毒して天日で干して加工用の下処理を行います。干した後にペンチで中の実と外皮に分けており、その全てを手作業で行っています。
菱の実の利用法には、食料としてお菓子やお茶、お酒の原料になり、医療では薬の材料に、工芸品としては人形やおもちゃにも使われます。
神崎産和菱と佐賀県産米麹から作られた「神崎菱焼酎」は2010年に完成しました。佐賀市大和町にある大和酒造(株)が製造し、昨年福岡国税局酒類鑑評会・本格焼酎の部で金賞を受賞しました。
佐賀の銘菓「丸ぼうろ」をヒントに開発された「ひしぼうろ」は2012年から販売。シナモンのような風味のある菱の外皮を粉末にして練り込んだお菓子です。菱の実の皮にはポリフェノールが多く含まれていることが判明(特許取得)し、菱焼酎の製造過程で廃棄していた菱の皮を活用したもので、神崎市菓子組合と西九州大学、神崎市の産学官が連携して生まれました。
神崎市の菓子店「大串製菓店」「荒木屋」の2店舗で製造。全国菓子大博覧会で金賞を受賞しました。
ひし応援キャラクターのヒッシー君も考案され、「神崎市の『菱』を町の特産品に!」という情熱を感じます。今後は化粧品(クリームや石けん)も商品化を考えているそうです。
さて、私も菱の実を持ち帰り、塩茹でにしてみました。約20~30分ほど茹でた後、広げて冷やします。色は緑色から茶色に変わります。外皮が硬くて包丁ではなかなか上手に剥けなかったので、栗剥き機で剥いてみました。
可愛いハートの果肉が出てきます。上のとがっているところは発芽する部分だそう。
塩茹でにした菱の実の味わいは、栗のような食感でもっちりした部分もありホクホクでした。実の硬さはクワイの様でした。やや磯の香りがするのはクリークで採られているからでしょうか。独特な風味と食感は今まで感じたことのないものです。中国や台湾では古くから滋養強壮や健胃効果があると言われてきたようで、素揚げにして料理に使ったり、天ぷらにすることもあります。
私もカシューナッツ炒めをヒントに、旬のぎんなんも入れて中華風の炒め物にしてみました。ホクホクと栗の様な食感の菱の実がアクセントになり、美味しくいただきました。
【食育メモ】
菱は、実が押しつぶされたような形をしているので「拉げる」(押しつぶされる・ひしゃげる)という言葉から名付けられたと言われています。そして「菱形」という言葉は水面に浮かぶ葉のカタチから名づけられました。万葉集にも菱についての歌が詠まれていて、化石としては約200万年以上前の地層から出てくるそうです。忍者が使う撒菱(まきびし)も菱の実が使われたという説もあり、忍者の非常食にもなっていたのだとか。
神崎市の新特産品「菱」、今後もどんどん加工品や活用商品が開発されて、菱の一大産地となってほしいです。また古きよき日本の食文化、菱をおやつとして食べる文化がなくならないでほしいものです。
佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧でした。