まつのベジタブルガーデン

青森県南部町の食文化を彩る伝統野菜「阿房宮」の干し菊

まつのベジフルサポーターレポート

青森県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、ベジフルビューティーアドバイザーの欠畑(かけはた)睦子です。

夏菊からはじまり「十五夜」「八戸12号」「もってのほか」など、青森県南部地方では菊の花を食用とする文化があります。その中でも主力品種の高貴な名前をもつ食用菊「阿房宮(あぼうきゅう)」は古くから食べられてきた伝統野菜のひとつです。


目にも鮮やかな黄色の八重咲き、香り高くほのかな甘味とシャキシャキした食感が特徴の「阿房宮」は、満開となる10月から11月上旬に収穫される秋の味覚として知られていますが、県内一の食用菊の産地、三戸郡南部町ではそのほとんどを「干し菊」にするという古くからの風習があり、今でも北国の食文化として受け継がれています。

「阿房宮」を栽培している佐々木一雄さんの畑は名久井岳の丘陵地にあります。JA八戸・三戸営農センター営業部主査の川上守さんに案内していただきました。

畑に向かう斜面の道路は狭く荒くドキドキしましたが、着いてみると澄んだ空気と美しい景色に感動しました。


畑には霜よけのビニールが掛けられており、一面満開の黄色い絨毯…とはいきませんでしたが、菊のかぐわしい香りが畑いっぱいに広がっていました。

害虫と気候の影響を受けやすく、栽培の手間がかかる阿房宮は6月末に全て植え替えて摘芯し、一つ一つ添え木を立てて縄で結わえた状態で育ててきました。夕方には菊の上部を折り曲げビニールシートを低くかけ直し、冷気や霜から守ります。この作業は収穫を終えるまで続きます。

南部藩主により京都から持ち込まれた晩生の阿房宮は、水はけの良い丘陵地にある南部町の気候と相まって、霜の降りる直前まで収穫しますが、そこには様々な工夫と多くの手間を要します。

収穫する花は摘み取るのではなく枝ごと鎌で刈り取り、作業場で菊花をほかします(花びらをむしること)。ここから干し菊作業が始まります。
佐々木さんのご好意で同町の矢巾巌さんの作業場までご案内いただき、干し菊が出来るまでの作業を見学できました。

ほかした菊は重さを均等に計量し、笊にのせて蒸しあげます。

その温度や時間は長年の勘ということですが、だいたい95度で45秒くらいとのこと。その作業は見ていても息をつく間もないほど、流れるように手早く止まることはありません。


蒸された菊は笊からはずし綺麗に並べられて乾燥室で干します。形は料理の用途に合わせ、丸と四角の2種類があります。

佐々木一雄さんの10アールの畑では、6000枚ほどの干し菊ができるそうです。


こうして作られる干し菊は色も香りも食感もよく、冬場だけでなく一年を通して食べられます。南部地方の郷土料理やおもてなし料理には欠かせません。

干し菊は熱湯で2~3分茹でてから水にさらし、絞って酢の物や汁物、和え物で食べます。最近ではそのまま使えるようなほぐし干菊や、ジャム、サイダーなどの加工食品も販売されています。


南部地方では、蒸したばかりの菊を海苔のように簾で酢飯と一緒に巻く「菊巻き寿司」が有名です。また、彩り野菜などを巻いた酢の物やお漬物など、おもてなし料理としても提供されます。私は出汁入り酢飯としめさばを一緒に巻いて食べたりします。

おすすめは甘酢漬けです。酢に含まれるクエン酸は疲労回復や食欲増進、消化吸収のアップが期待されます。サッと湯引きして甘酢に漬け、冷蔵庫に常備して和え物に加えたり刺身や酢の物のつまなど、随時楽しめます。

食用菊の原産地は中国。主に乾燥させて漢方薬として使われており、ビタミンB群やミネラルが豊富なことから眼精疲労や肝機能を高めるとされ、薬膳にも取り入れられています。

先日立ち寄った八戸市の市場「八食センター」ではお土産としても人気があるそう。また、「お土産でもらった干し菊が余りにも美しいため花瓶敷にした人がいたそうだよ」という笑い話まであるとか。南部町の風物詩、その黄色の高貴な美しさはまもなく訪れる寒い冬の食卓に彩りを添えます。見かけたらぜひ食べてみてくださいね!

青森県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、ビジフルビューティーアドバイザーの欠畑睦子でした。

青森県の記事