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佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧です。
昔と変わらずに今も伝統を守りながら干し柿をつくり続けている佐賀市大和町松梅地区を訪ねました。
1732年に佐賀5代藩主鍋島宗茂へ献上されたという記録が残るほど、300年前には干し柿の名産地である松梅地区。干し柿自体は奈良時代からつくられていたそうで、冬の厳しい山間地を生き抜く人々の知恵が詰まっています。柿小屋に玉すだれのようにぶら下がる柿の列は晩秋の風物詩です。
現在約40戸の干し柿加工生産者が集まっている松梅地区、その中でも「名尾」は干し柿の里と呼ばれています。川浪農園の川浪伸洋さんを取材しました。
川浪さんは、3反(約30アール)の土地に200本の渋柿の木を有し、毎年11~12月に干し柿をつくっています。長男の悠貴君(6歳)も干し柿づくりを手伝います。
(撮影:河村稔氏)
収獲は10月中旬から12月上旬まで、家族総出で干し柿の原料となる渋柿を採ります。
(撮影:河村稔氏)
コンテナにいっぱいの渋柿を収穫後、皮を剥いて紐につないでいく作業を行います。
皮剥きの早いこと!するするするっと鋏サイズの小さな包丁のような特別な道具で剥きます。
紐通しは川浪照子さん(76歳)が頑張っていました。慣れた手つきでどんどん紐に渋柿がつながっていきます。紐を寄せて輪になった部分にヘタを通していきます。
品種は、左から紅稲佐(べにいなさ)、西条(さいじょう)、葉隠(はがくし)の三品種で、今年は実の成りが乏しくて干し柿が出荷不足になりそうなので渋柿を仕入れてまで加工するのだとか。それほど干し柿加工業が盛んな地域で、江戸時代からの六次産業の町なのです。
紅稲佐は早生品種、色がとても強い紅色で旨みと甘味の絶妙なバランスと、水分が多く糖度が高いため生産者の間で特に好まれています。気候風土に合い、他地方ではあまり見られない品種です。果実は大きくないですが、収獲量は安定していて連年結実します。干しあがりの色が鮮やかで吊し柿用にも人気。果肉はしっとりともちもちとした食感です。
西条は実が大きく縦長い形が特徴的で、肉質が柔らかく緻密です。干しあがると2/3ほどに小さくなりますが、それでもサイズは大きいです。外はもっちり中はとろっとなる品種で、渋抜き後の品質は極上で柔らかく甘くて美味しいのが特徴。
葉隠はオレンジから赤色のやや小ぶりの渋柿。丸くて綺麗な形なので、贈答用によく用いられます。やはり水分が多くて甘味があり、もっちりした食感の干し柿。松梅地区ではあんぽ柿が多くつくられています。「あんぽ柿」とは水分を50%前後含み、表面は乾いているものの中は生乾きのものを言います。
完成した干し柿は丁寧に包装され、九州一円に出回るほか、山口県まで出荷されているそう。保存方法としては、冷凍すると長期間品質を保持できるとのこと。川浪農園では、約5万個の干し柿を生産・出荷しており、松梅地区全体では200万個ほどの干し柿が出荷されているというから驚きです。
今回はもう一軒生産者をご紹介しましょう。
西川博幸さんご家族も11~12月にかけて干し柿づくりで大忙し。コンテナいっぱいの渋柿を全て手作業で剥き、手間ひまかけて干し柿をつくります。干し柿づくりは繊細で丁寧な作業が求められます。最後まで細心の注意を払い、丹精込めて家族で協力しながら作業します。
小学2年生の愛ちゃんも皮剥きのお手伝い。子どもも皮剥きから収穫まで手伝うのが昔からこの地区の習わしです。即戦力となるよう小さな頃からお手伝いして、干し柿づくりのノウハウを自然に覚えていきます。松梅地区の小学校では毎年「柿むき大会」が行われ、「干し柿の歌」もあるほど。40歳以下の卒業生は必ず歌えるほど、干し柿づくりが地域に密着しているのです。
姉妹で柿の頭部分の皮を剥いている作業中。和気藹々と和やかな雰囲気でした。目にもとまらぬ速さで手元は作業しており、するするっと皮を剥いてしまいます。
柿の頭部分だけ剥くのは、その後機械で渋柿を吸いつかせて高速回転しながら全体を剥くからです。
作業場には、小刻みにシャーと機械に取り付けた渋柿をピーラーで剥く音が響きます。
完全に剥けた渋柿は、紐につなげる作業へと移ります。これまたスピーディーにどんどん紐にぶら下がる渋柿たち。約30~35個ほど紐につなげるそうです。
どのくらい長いかというと、大人2人分ほどの長さ。そしてずっしりとつながった渋柿を実際に持ってみたら…とにかく重たい!貴重な体験ができました。
渋柿は約3週間から1ヵ月間、雨の当たらない場所で風にさらします。甘さが増す秘訣は、冷たい風を当てること。日中は15度以下、夜間は3度ほどで美味しい干し柿に仕上がるとのこと。
渋柿は干してずっと置いておくというわけではありません。時々状態を見て手でモミモミと触るのです。そうすると、旨みや甘みが進むのです。柿渋は内側から外側へ出ていきます。手もみすることで渋みが抜けていきやすいそう。
また、冷えすぎても暑すぎても美味しい干し柿はできません。まさに気候との勝負。冬に雨が多いとカビが生えやすく、暖冬の影響もあり干し柿づくりが難しくなってきているそう。「何十年作ってきても難しい」と言う方もいました。
経験がものをいう干し柿づくり。愛情込めてつくられる伝統的な松梅地区の干し柿は、ぷりっと丸くて肉厚、甘みたっぷりの濃厚な味わい。外はもっちり、中はとろっとした感動の干し柿に出会えました。
佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスター前田成慧でした。