まつのベジタブルガーデン

佐賀県「うれしの茶」を知りたい!飲みたい!伝えたい!(前編)

まつのベジフルサポーターレポート

佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスター前田成慧です。

「夏も近づく~八十八夜~」でお馴染みの茶摘みの歌、きっと一度は耳にしたことがあるでしょう。今年の八十八夜は、立春から数えて88日目となる5月2日。毎年5月が近づいてくるとこの歌をうたいたくなる私は、幼少の頃に茶道を嗜んでいたこともあり、抹茶や緑茶には目がありません。

さて、今年の新茶、もう飲まれましたか?その年に最初に摘んだ新芽を使ったお茶は「新茶」と呼ばれ、独特のフレッシュな味わいが楽しめます。
うれしの茶
今回は、佐賀県の南西部に位置する有名なお茶処「嬉野市」へ。「うれしの茶」ご存知でしょうか。全国には各地にお茶の産地がありますが、産地が違えばチャノキ(品種)も違い、製法も飲み方も異なります。

1897(明治30年)創業の『相川製茶舗』を取材しました。
相川製茶舗
四代目茶師の相川源太郎代表(67歳・中央)は、蒸し製緑茶の全国品評会で日本一に輝いた経験の持ち主。家族で8反の茶畑を管理しながら製茶業を営み、茶葉に様々な可能性を見出すエキスパートです。お茶のある暮らしから心までも潤すお茶の文化を楽しんでもらいたいと、昔ながらの日常茶の大切さを発信しています。
  嬉野茶
「うれしの茶」は1440年頃、当時中国から移住してきた唐人が陶器を焼くかたわら、自家用にお茶を栽培したのが始まりといわれ、その後1504年に明の紅令民が南京釜(唐釜)を持ち込み、「釜炒り製法」の技術が伝えられたとされています。現在は釜炒りではなく蒸してつくられることが多いそうです。
  
他産地の茶葉との大きな違いは、1枚1枚の茶葉がグリッと丸くなっているところ。「ぐり茶」と呼ばれ、高温で蒸し、揉んで乾燥させたお茶です。製造工程が一般的な煎茶と違い、生葉の蒸したあと茶葉の形をまっすぐのばして揉み整える精揉(せいじゅう)という工程がありません。そのため、茶葉を傷めず、成分が浸出しやすく渋みが抑えられます。
 うれしの茶
日本茶の中ではこの独特の丸みを帯びた茶葉の形は珍しく、うれしの茶の9割以上がこの「ぐり茶」です。艶のある緑色の茶葉は渋みが少なくて香りが高く、旨みも強いという特徴があります。「うれしの茶」には製法によって、後味に清涼感のある蒸し製法の「蒸製玉緑茶」(むしせいたまりょくちゃ)と、のどごしがさっぱり香ばしい「釜炒り茶」の2種類が存在します。
嬉野茶
「ぐり茶は急須の中でゆっくりと開いて旨みが抽出されるので、湯を注ぐ度に味わいや香り、旨みが変化し、二煎目、三煎目まで楽しめます」と話すのは、静岡で1年間お茶の修行をされたという五代目の青柳貴信さん。
嬉野茶
茶葉が真っすぐな煎茶(日常でよく飲まれる緑茶)と違い、玉緑茶(通称ぐり茶)は茶葉を急須に一度入れると何度も煎が効き、普段使いの茶葉としてぴったりだなと感じます。

日常使いのお茶といえば「番茶(固くなったり伸びた茶葉でつくられた緑茶)」もありますね。
うれしの茶
番茶のようにやや黄色がかった黄金色のお茶も緑茶の一種。この【秋冬番茶】は、秋に摘んだ茶葉(四番茶)を熟成させて作ったもので、日常で飲んでほしいお茶とのこと。軽やかな口当たりからすっきりとした飲みやすさ、何杯飲んでも胃もたれせず、たっぷり飲んで体の調子を整える昔ながらの「日常茶」です。さっぱりとした味と香りはどこか懐かしく、苦味や渋みが少ないです。

写真左は新茶、右は四番茶の秋冬番茶。
 うれしの茶
秋摘みの番茶は新茶に比べ、苦渋味の元となるカフェインが少ないのが特徴です。カフェインの気になる妊産婦やお子様も安心して飲めるだけでなく、「ポリサッカライド」という注目の成分が入っており、糖質の気になる方にもオススメの健康茶。「ポリサッカライド」は熱に弱いのでじっくりと水出し抽出することが重要です。昔から夏は、水出し番茶が良いと言われてきました。
  
さて、さきほど秋冬番茶を「四番茶」と記しましたが、お茶は摘む順番によって呼び名があります。
・一番茶(暖地では4月中旬、北限地では5月下旬)
・二番茶(一番茶を摘んで1ヵ月半後、暖地で5月下旬、北限地では6月下旬~7月上旬)
・三番茶(二番茶を摘んで約35日後、7月中旬~8月上旬)
・四番茶(8月中旬~10月上旬に摘んだもの、秋冬番茶)
 嬉野茶
(提供:青柳貴信さん)

緑茶は基本的に茶葉の新芽芯三葉を摘んでつくられます。
嬉野茶
緑茶には、新茶・玉露・番茶・抹茶といった種類があり、玉露とは新芽を20日間ほど日光に当てず育てた茶葉でつくる高級な日本茶です。抹茶はてん茶といわれ、玉露と同じように日光に当てずに育てた茶葉をもまずに粉にしたもの。
  嬉野茶
「お茶の美味しさは、うまみ、渋み、苦味のバランスが大切。緑茶といえば緑色だと思っている方が多いけれど、番茶も緑茶。番茶は日常的に今まで飲まれていましたが、今は番茶文化がなくなってきていますね」と語るのは、四代目茶師の奥様相川恵美子さん。

渋柿が干している間にゆっくりと甘くなるように、新茶で摘んだ茶葉も時間が経つことで熟成し、旨みや甘味が増えるそう。製造された時期とは味わいが変化して旨みが増えるというのは驚きでした。
 嬉野茶
昨年の茶葉収穫風景(提供元:青柳貴信さん)

「お茶には季節ごとの味わいがあり、春は若々しく、次第に熟成し、秋には角のとれた味わいとなります。季節ごとの味わいを楽しめる緑茶文化は、日々の暮らしの中でのどの渇きを潤すだけでなく、心の渇きも潤してくれます」と青柳貴信さんは語ります。
嬉野茶
帰宅後、茶葉を天ぷらにしてみました。新鮮な茶葉はお茶の香りとほんのり苦味があり、爽やかな初夏の味わいでした。

私は福岡県出身なので今まで八女茶を主に飲んできました。結婚後佐賀県に移り住み、初めて口にした「うれしの茶」には衝撃を受けました。第一印象の味わいは甘く、まろやかで、旨みがあり、口に残るまったりとした感覚は十数分経っても感じるもので、包み込まれるような優しさにあふれる緑茶です。

相川製茶舗のお客様は、「しばらくしてから味がする。口の中に残るから後で美味しい」と話すそう。うれしの茶は後口が特に良く、時間差で旨みがやってきます。ぐり茶ならではのこの旨味をを中国では「改味(かいみ)」と呼びます。多くの方に日常生活の中で飲んで、「うれしの茶」の美味しさを楽しんでもらえたら嬉しいです。

 佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧でした。

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