まつのベジタブルガーデン

山梨県国産ワイン発祥の地「甲府」のワインで乾杯を

まつのベジフルサポーターレポート

山梨県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエプロ・フードツーリズムマイスターの村上由実です。

山梨県の県庁所在地である甲府。1519年、戦国時代に名将として全国に名を馳せた武田信玄の父である武田信虎が「躑躅ヶ崎(つつじがさき)」(現在の武田神社)の地へ居館を移して大規模な城下町の整備に着手したことに始まり、「甲斐の府中」を略して「甲府」と呼ばれるようになりました。
つつじがさき
現在、甲府市では開府から500年という歴史的な節目を迎える2019年に向け、歴史や伝統、文化を次世代に継承すると共に、新たな甲府のまちづくりにつなげていく「こうふ開府500年記念事業」を行っています。その記念事業の一環として、スパークリングワイン「甲府Sparkling甲州2017」が開発され、限定5,000本が製造されました。
甲府Sparkling甲州2017
漆を用いた伝統工芸「甲州印伝」の「ひし菊」の図柄があしらわれたラベルにも甲府市らしさが感じられます。
甲州印伝風ラベル
こちらのワインは、先日の「こうふ開府500年記念事業カウントダウンイベント300日前」でお披露目となりました。このイベントには、記念事業実行委員長の樋口雄一甲府市長や名誉顧問の後藤斎山梨県知事を始め、スパークリングワインの開発に関わった方々が一堂に会していました。
カウントダウンイベント300日前
完成披露セレモニーには先着300名に乾杯用のミニグラスも準備され、多くの市民が来場していました。
300人分の乾杯ミニグラス
樋口甲府市長の発声によりみんなで乾杯!
乾杯
やや辛口で、口の中に残るフルーティーな香りが特徴で飲みやすいと、来場者にも好評でした。限定数5,000本の店頭販売は既に終了していますが、今秋にもまた同じワインを製造することが決まっています。

今回は「甲府Sparkling甲州2017」の生みの親、柳田藤寿教授を訪ねました。私の母校でもある山梨大学の中にあるワイン科学研究センターは、果実酒を専門に研究する我が国唯一の研究機関として、1947年に山梨大学工学部の前身である山梨工業専門学校に付属醗酵研究所として設置され、1950年に山梨大学工学部付属醗酵化学研究施設と名を変え、2000年に現在のワイン科学研究センターとなりました。
ワイン科学研究センター
現在は日本のワイン産業の発展とともに、幅広い方面からワインやぶどうの研究を行っています。大学では、同センターが開発した技術を基に醸造されたワインを地元ワイナリー4社と共同して世に送り出しています。写真は「まるき葡萄酒株式会社」のものです。
山梨大学ワイン
柳田教授は微生物を研究するために山梨大学に入り、酵母や乳酸菌の発酵による新製品の研究と開発を行っています。
柳田藤寿教授
2000年に世界で初めて海洋酵母を使ったワイン醸造に成功し、「サッポロワイン株式会社」より「海の酵母のワイン」として発売されましたが、12万本は即完売となり、残念ながら現在はいただくことができません。2010年には北杜市の飲料メーカー「白州屋まめ吉」と共に、山梨県産の飲料用大豆「すずさやか」を植物性乳酸菌と山梨大学で開発された「山梨ワイン酵母」で発酵させた「大豆で作った飲むヨーグルト」を製品化しました。
大豆で作った飲むヨーグルト
一般的に大豆を使った飲み物は香りが強く、大豆が苦手な人は飲みにくいことが多いですが、「ワイン酵母を使うと大豆臭が軽減されて飲みやすくなる。」とのこと。プレーンと桃、ぶどうの果汁をブレンドしたタイプがあり、飲み比べてみるのも良いですね。似顔絵はもちろん柳田教授。似ていますか?(笑)
柳田教授
また、精進湖のくぼ地に6年~7年に1度出現する幻の湖「赤池」で採取した発酵性酵母「赤池幻酵母」を使ったワインも発売されています。

そんな柳田教授が研究代表者となったのが、「地域特性を活かした『稼ぐまち甲府』の創出」事業の一環として甲府市と山梨大学との共同研究で始められたスパークリングワインの開発です。その土地のぶどうを使ったワインは沢山ありますが、原料と酵母を同じ地域から調達するワインは珍しく、「市販ではなく甲府市内の酵母にこだわりたかった」とおっしゃる柳田教授。ワイン産業における甲府市の認知度向上や誘客などを目的に、研究が始まりました。

まず、酵母の試料採取地を甲府市内にある武田神社・千代田湖・昇仙峡の3か所に選定。武田神社ではお堀から水サンプルを、そして土壌と落ち葉から自然サンプルを採取、さらに千代田湖と昇仙峡からも水サンプルを採取しました。

その後採取したサンプルから403株の酵母を分離し、アルコール発酵性試験。20パーセントのスクロース(ショ糖)を含む液体培地を用いたアルコール生産性試験を行い、エタノール生成力の高い78株の酵母を選抜しました。そして次に行ったのが果汁発酵試験。甲府市産甲州ぶどう果汁(25度)を用いた発酵試験を行い、安定的に高いアルコール発酵性が認められた54株の酵母を選抜しました。

続いて果汁低温発酵試験。低温(18度)で、40ミリリットル、200ミリリットル、1リットルの果汁を用いた発酵試験を順次行い、生成したワインの一般分析(比重、アルコール濃度、pH、香気成分)、官能評価、硫化水素生成試験を経て、最終候補株2株を選定しました。

そして2017年8月29日、樋口雄一甲府市長、島田山梨大学学長、柳田教授による公開テイスティングが行われ、2株の最終候補から使用酵母1株を決定しました。ちなみに、最後に残った酵母は武田神社で採取されたものだったそう。武田信虎公から3代にわたって武田家の当主が居住し、甲斐国の政務を執っていた武田神社は、やはり甲府市にとっても特別な場所なのかもしれません。
 武田神社
その後9月から醸造が開始され、2018年1月30日に商品化されました。
開発中の様子は以下の山梨大学ホームページで閲覧が可能です。

4月からは赤ワイン用マスカットベーリーAでの開発研究も始められるそう。柳田教授は「来年は赤かロゼも出したい。そして、最終的にはスパークリングではなくシャンパンにも挑戦したい」と力強く語ります。

山梨県はぶどうの収穫量・出荷量とも全国トップ(2017年産農林水産省統計)ですが、それと同時に、世界に誇るワイン産地でもあり、約80社のワイナリーがあります。県内各地に点在しているものの、その多くは甲州市勝沼町周辺。ワイン好きなら「かつぬま」という地名は一度は聞いたことがあるでしょう。

しかし、国産ワインの歴史をたどってみると、日本で最初にワインが醸造されたのは勝沼町ではなく、近年ワイナリーが増えている韮崎市でもなく、1870年に甲府市武田で山田宥教さんと詫間憲久さんが甲州種や山ぶどうでぶどう酒の醸造を行ったのが始まりという記録が残っています。

当時は原料となるぶどうの糖度や醸造技術が未熟だったり、資金難などの理由で彼らの事業は頓挫。その後彼らの志を継ぐ形で1877年に葡萄酒醸造所が設立され、国産ワイン発展の礎となっています。
甲州
こちらは1917年創業で、今回のスパークリングワインの醸造を行った甲府市にあるワイナリー・サドヤ。
株式会社サドヤ
甲府の街から始まった国産ワインの歴史。そして、今「甲府Sparkling甲州2017」の誕生により、また新たな歴史の1ページが刻まれました。先人たちの思いは脈々と受け継がれ、しっかりと今に息づいています。

こうふ開府500年まで300日を切りました。今後の展開にぜひ注目してください。
開府500年までのカウントダウン
山梨県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエプロ・フードツーリズムマイスターの村上由実でした。

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